パリスデージーに託した心
男性:僕には密かに想っている人がいる。
男性:彼女は笑顔で身分など関係なく
男性:分け隔てなく接する。
男性:パーティーに参加すると必ずいるし
男性:歳が同じだったから
男性:自然と話す機会も多くなった。
女性:「あ、こちらに居らしたんですね」
男性:「もう話は終わったんですか?」
女性:「えぇ。話していたというよりは…」
男性:「また、許婚(いいなずけ)になってくれって?」
女性:「はい(苦笑)何度もお断りしているのですが」
男性:「まぁ、僕達くらいの年齢で相手がいないのは珍しいかもしれませんしね」
女性:「そうですね(苦笑)」
男性:「それにあなたは周りに優しいから。
男性: 押せば折れてくれると思われているのかもしれませんよ?」
女性:「…優しいですか?」
男性:「えぇ。とても」
女性:「流石に一家の面目もありますし
女性: 適当には出来ないと思っているだけなのですが」
男性:「それでも優しいんですよ」
女性:彼はいつも私のことを
女性:『優しい』と言う。
女性:本当にそうなら良いのだけれど。
女性:私の家は、所謂(いわゆる)財閥で
女性:幼い頃から『どんな人にも愛想良く』と言われてきた。
女性:だから家の教えを守っているだけの私に彼の言葉は響かない。
女性:「褒めても何も出ないですよ?」
男性:「僕は見返りを求めて言っているわけではないので。
男性:素直に思っていることをお伝えしているだけです」
女性:「そうですね。
女性:(小声で)あなたはいつも…」
男性:「どうかしましたか?」
女性:「いえ。なんでもありません」
女性:私は彼が好き。
女性:でも、想いを伝えはしない。
女性:彼には想い人がいるから。
女性:それに、例え両想いだとしても絶対に叶わぬ恋だと私は知っている。
男性:彼女は時折切なく笑う。
男性:その表情を見る度に支えたいと思う。
男性:何より、僕は彼女が好きだ。
男性:でも、想いを伝えはしない。
男性:彼女には想い人がいるから。
男性:僕と彼女の家は
男性:どちらも財閥でライバル関係の家。
男性:だから、例え両想いでも叶うことはないと知っている。
女性:「そういえば…」
男性:「どうしました?」
女性:「いえ」
女性:「ふと、この会場のテラスは、景色が良かったなぁと思い出しまして」
男性:「あぁ、確かに。晴れていますし行ってみますか?」
女性:「えっ?」
男性:「疲れた時や気晴らしをしたい時は、外の景色や空気を吸うことで楽になりますよ?」
女性:「確かに、そうですね」
男性:「だから、行きましょう?」
男性:「僕も少し外に出たい気分ですし。付き合ってください」
女性:「…わかりました」
【パーティー会場のテラス】
ー 男性がテラスのイスを引く ー
男性:「どうぞ」
女性:「ありがとうございます」
男性:「晴れていて、空気も澄んでいる満天の星空…いいですね」
女性:「えぇ。ここは手入れもきちんとされていて、花も綺麗に咲いていますし」
男性:「本当ですね」
女性:「私は…パーティーのような煌びやか(きらびやか)な場所は苦手なのです」
男性:「僕もです」
男性:「いつも財閥の家でなければ
男性: こんな思いしなくていいんじゃないかと思ってしまいます」
女性:「あなたもそんな風に思うのですね」
男性:「えっ?」
女性:「あなたは私に『優しい』と言って下さるけれど、
女性: 私からしたら、あなたの方が『優しい』と思うんです。
女性: いつもさり気ない気遣い、愛想と思わせない笑顔、柔らかい話し方…
女性: どれもあなたの相手への優しさからだと思うので」
男性:「そんな風に言われたのは…初めてです」
女性:「そうなのですか?
女性: 私はいつも【スノーフレークの花】のような人だと思っていました」
男性:「スノーフレークの花?」
女性:「えぇ。花言葉があなたにぴったりだと思って」
男性:「どんな意味なんですか?」
女性:「それは秘密です」
男性:「えっ?」
女性:「心の中に留めておくほうが良いと思うので」
男性:「なら、次に会う時までに調べておきましょう」
女性:「えっ?」
男性:「そうしたら、あなたともっと色々なお話が出来そうですし。
男性: 他に好きな花や花言葉はあるんですか?」
女性:「リナリアや勿忘草(わすれなぐさ)は、花として好きですね」
男性:「花として…では、花言葉は別ということですか?」
女性:「…そうですね」
男性:「花言葉も含めて好きな花もあるんですか?」
女性:「サザンカと…マーガレットですかね」
男性:「なるほど…調べておきます」
女性:「…楽しみにしています」
男性:「そろそろ、戻りましょうか」
女性:「そうですね」
女性:きっと、彼は本当に意味を調べてくる。
女性:そして、その意味を知っても
女性:想いが通じることはない…
女性:私たちの関係は、これからもこのままで。
(『白い花で花占いを』へ続く)
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