1年越しの記念日


【詳細】

 コンビを組んで1年半の記念に合作した作品

 時間目安 15分程度

 人称変更、語尾改変などは、話の変わらない程度なら可


【あらすじ】

 記念日に残業してしまって、彼女の家に急ぐけど…

 

【登場人物】

 ◆:彼女と付き合って1年の記念日を迎える。

 ◇:彼と付き合って1年の記念日を迎える。



◆:「あ、はい…残業ですか?」

◆:「わ…かりました…」


◇:『頑張って料理作って待ってるね』 


◆:文面で分かる

◆:嬉しそうな彼女からのメッセージ…


◆:『…ごめん、残業になった…』


◇:文面で、彼の残念そうな気持ちが

◇:伝わってくる


◆:今日は、付き合ってちょうど1年

◆:彼女の家でささやかなお祝いをしようと予定を立てていた


◇:彼との1年記念日

◇:彼との毎日が楽しくて、愛おしくて…

◇:でも、今日彼は仕事で遅くなるらしい

◇:とても寂しいけど、仕方がないことだと自分に言い聞かせた



(少し間をあける)



◆:はぁ…終わった

◆:「お疲れ様です。失礼します。」

◆:まだ…間に合う…か


◇:時刻は0時を回ろうとしていた

◇:テーブルには用意した料理

◇:ケーキも

◇:ただ、彼がいない…


◇:駅まで

◇:迎えに行こうかな


◆:急いで彼女の部屋に向かう

◆:きっと、彼女は待っていてくれている

◆:おいしい料理を作って

◆:チャイムを鳴らすと、きっと彼女は

◆:笑顔で「おかえりなさい」と

◆:出迎えてくれるだろう

◆:これから彼女に会える嬉しい気持ちと

◆:帰りが遅くなって申し訳ない気持ちで

◆:いっぱいになる


◆:ようやく部屋に着き

◆:チャイムを鳴らす


◇:「おかえりなさい」


◆:そう聞こえるはずの彼女の声は

◆:聞こえてこなかった


◇:あ、電話

◇:彼からだ

◇:出なきゃ

◇:あれ、出れない


◆:電話

◆:何度かけてもつながらない

◆:彼女の部屋に入ると

◆:テーブルいっぱいの料理

◆:でも、彼女はいない


◇:彼を迎えに行く

◇:電話には出れなかったけど

◇:駅に行けば会えるはず

◇:きっと彼は、申し訳なさそうな笑顔で

◇:「ただいま」と言ってくれる

◇:そんな彼の笑顔が好き

◇:そんな彼が好き


◆:行き違いになったかな?

◆:普段なら部屋で待ってるけど

◆:今日は記念日だから

◆:もしかしたら、待ちくたびれて

◆:駅まで、迎えに来てくれていたかもしれない

◆:部屋を出ると

◆:大きなサイレンを鳴らした救急車が

◆:不安を置いて通り過ぎて行った


◇:『駅に行くね』と

◇:彼からメッセージ

◇:どうやら行き違ったみたい

◇:また、行き違ったら困るから

◇:私は駅で待つことにした

◇:残業で疲れてるのに 

◇:申し訳ないなぁ     



◆:駅に着き

◆:彼女を探す


◇:彼を見つけた


◆:彼女が見つからない


◇:「おかえりなさい」


◆:彼女が

◆:みつからない


◇:「おつかれさま」


◆:かのじょが

◆:みつからない


◇:「あ…れ…?」


◇:みえてない?

◇:そんなわけないよね


◇:「わたしはここだよ」


◇:こえが、とどいてない?


◆:かのじょが…


◇:彼の携帯が鳴る



◆:彼女が

◆:事故に遭ったと



◇:いらっしゃい

◆:「……」

◇:なんか、ごめんね

◆:「……」

◇:部屋で待ってたんだけど

◇:あなたに早く会いたくて

◆:「…ごめん」

◇:え、なんで謝るの?

◆:「ごめん」

◇:ねぇ、どうして?

◆:「残業なんか断って

◆: 早く帰ればよかった」

◇:仕事なんだから仕方ないよ

◇:ちょっと寂しかったけどね

◆:「もっと早く帰っていれば」

◇:私も、駅に迎えに行くねって

◇:連絡しておけば良かった

◆:「っ…ごめん」

◇:だから、私も悪かったし

◇:お互い様だよ

◆:「ご、めん」

◇:……


◆:病院のベッドで眠る彼女に声を掛ける

◆:当然、返事はない


◇:私の声は、彼に届いていない

◇:彼は、一晩中、私の傍にいてくれた


◆:一晩中、彼女の傍にいたけど

◆:その日、意識を取り戻すことは無かった


◇:それから毎日彼は病院に来た

◇:私に話をしてくれた


◆:毎日彼女に会いに行った

◆:返事は無いけど

◆:他愛の無い話をした


◇:彼は優しい人だから

◇:私が事故に遭ったのは

◇:きっと、自分のせいだと思っている


◆:彼女が事故に遭ったのは

◆:僕のせいだ

◆:僕が…


◇:あなたは悪くない


◆:僕が悪い…


◇:自分を責めないで


◆:僕のせいだ…


◇:こんなにも

◇:私のことを想ってくれているのは嬉しいけど


◆:僕が…


◇:あなたのつらい顔を見るのは

◇:私もつらいから


◆:僕が…


◇:だから、早く


◆:……


◇:早く目を覚まして

◇:そして、伝えないと


◆:「お願いだから、目をあけてよ…」

◆:彼女の手を握りながら、祈った


(少し間をあける)


◆:彼女が事故に遭ってちょうど1年

◆:あの日から僕の時間は止まっている

◆:毎日彼女の元へ行き、

◆:目を覚ますのを祈りながら、

◆:声を掛け続けていた


◇:あの日からずっと

◇:彼はここを訪れている

◇:毎日色々な話をしてくれる


◆:「今日、2回目の記念日だね」

◆:「記念日のプレゼント」

◆:「久しぶりに雑貨屋に行って

◆: 君に似合う髪飾りを見つけたんだ」


◇:早く、起きなきゃと思うのに

◇:いつまでも暗闇の中

◇:どれくらい経ったんだろう…

◇:はやく、あなたに


◆:「それからピアスも」

◆:「お気に入りだって言ってたピアス」

◆:「あの日、壊れちゃったから…」

◆:「まったく同じってわけには

◆: いかなかったけど」


◇:そう言って彼はピアスを付けてくれた

◇:ありがとうって言いたいのに

◇:言えないもどかしさを感じていた


◆:「うん。やっぱり似合う」

◆:ピアスを付けたあと

◆:ふと、彼女の頭を撫でたくなった


◆:頭を撫でると

◆:彼女の笑顔を思い出す

◆:今は見ることができないけど

◆:ふわっと笑う彼女の

◆:その笑顔が好きだった


◇:彼に頭を撫でられるのが好きだった

◇:滅多にしてくれないからこそ

◇:少し恥ずかしくて照れてしまうけど

◇:何より嬉しくて、笑顔になれた


◆:君の笑顔を思い出して

◆:急に胸がいっぱいになった


◇:温もりを感じたと思ったら

◇:今度は冷たい何かが

◇:頬を伝う


◆:気付いたら、僕は泣いていた

◆:零れ落ちた涙が

◆:彼女の頬を伝っていた

◆:目の前がぼやけて彼女の顔が

◆:ちゃんと見えない

◆:自分の涙を拭おうとした時

◆:僕の頬に温もりを感じた


◇:「泣い、てるの?」


◆:「っ!」


◆:僕は言葉が出なかった

◆:ずっと待っていた彼女の

◆:聴きたかった声

◆:僕の好きな微笑んだ顔

◆:それが目の前にある

◆:そして、温かいその手に

◆:そっと自分の手を重ねる


◇:やっと暗闇から出られたと思ったら

◇:目の前には泣いている彼

◇:思わず、涙を拭いたくなって

◇:手を伸ばした 

◇:泣かせているのは自分だと

◇:分かっていても

◇:聞かずにはいられなかった


◇:「大丈夫?」

◆:「あぁ…大丈夫だよ」

◆:「……よかった」

◆:「もう、君の声も聴けないし

◆: 笑顔も見られないんじゃないかって

◆: 思ってたから」

◇:「ごめんね」

◇:「すごく、心配かけたよね」

◆:「うん。

◆: でも、今は何よりも嬉しいよ」

◆:「君の意識が戻って」

◇:「そっか」

◇:「私も…

◇: やっと、あなたと話せてうれしい」


(少し間をあける)


◇:担当医の診察も終わり

◇:また、彼と2人

◇:家族には病院が連絡してくれる

◇:この時間を大切に過ごさないと


◆:特に問題ないと言われ

◆:ほっと一安心

◆:家族が来るまでもう少し

◆:この時間を大切に過ごさないと


◇:「私、1年も眠ってたんだね」

◆:「うん」

◇:「ごめんね」

◆:「えっ?」

◇:「あの日、迎えに行こうって

◇: 思った時に、連絡しておけば

◇: そんなに心配させることも

◇: なかったのに」

◆:「僕の方こそ、残業なんてしないで

◆: 君のところに行けばよかった」

◇:「お仕事は大切だよ」

◆:「もちろんそうだけど

◆: 僕にとっては仕事より君の方が

◆: 大切だから」

◇:「(微笑み)嬉しい」


(少し間をあける)


◆:「…あの日、君が事故に遭ったって

◆: 君のお母さんから連絡があった時さ」

◇:「うん」

◆:「一瞬、何を言われてるんだろうって」

◇:「うん」

◆:「君が事故に遭って

◆: しかも、重傷って…」

◇:「うん」

◆:「何が何だか分からなくなって

◆: でも、君の所に早く行かなきゃって思って」

◇:「うん」

◆:「手術が終わって

◆: ベッドで眠る君を見た時に

◆: 謝ることしかできなくて…」

◇:「うん、聞こえてたよ」

◆:「えっ?」

◇:「暗闇の中に居ても、

◇: あなたがずっと、傍に居てくれたのも感じてたし

◇: 毎日話をしてくれてたことも聞こえてた」

◆:「そうなんだ…」

◇:「…あの日のことは

◇: 何となくでしか覚えてないけど

◇: 早くあなたに会いたいって

◇: 思ってた」

◆:「僕も。あの日早く会いたいと

◆: 思ってた」

◇:「ありがとう…私ね」

◇:「会って、あの日言えなかった言葉を

◇: 言いたいって思ってたの」

◆:「あの日、言えなかった言葉?」

◇:「うん。付き合って1年だったから

◇: “これからも一緒に居ようね”って

◇: 言いたかったの」

◆:「それ、僕も言いたかったことだよ」

◇:「えっ?」

◆:「前から予定を立ててたから

◆: 早く帰って伝えたかったんだ」

◇:「そっか」

◆:「でも、残業になって…

◆: それでも、会って絶対伝えるんだって」

◇:「うん」


(少し間をあける)


◇:そんな話をしていると両親が来た


◆:彼女の両親が来たから

◆:飲み物を買いに行くと伝え

◆:少し席を外す


◇:彼に気を遣わせてしまったなぁと

◇:思いつつ、両親と話をする


◇:「大丈夫だよ」

◇:「先生からも心配ないって

◇: 言われてるから」

◇:「心配かけてごめんね」 


◇:ありきたりかもしれないけど

◇:一番伝えたいことを言う

◇:そして…


◇:「お母さんが彼に知らせてくれたって

◇: 聞いたよ。ありがとう」


◇:きっと、母が知らせてくれなかったら

◇:彼には、もっと辛い思いを

◇:させていたと思うから


◆:飲み物を買って部屋の前に着くと

◆:彼女の話し声が聞こえてきた

◆:僕に知らせたことにお礼を言っている

◆:彼女は律儀な性格でもあるから

◆:「それは僕が言うことだよ」ってことも自分で言ってしまう

◆:そういうところも好きなんだ


【ノック音】


◇:「あ、戻ってきた!どうぞ」

◆:「はい、お茶」

◇:「ありがとう」

◆:「あ、よかったら」

◆:僕は彼女の両親の分のお茶を手渡した


◇:彼は両親の分もお茶を

◇:買ってきてくれていた

◇:こういう気遣いの出来るところも

◇:好きなんだよね


◆:彼女の両親とは

◆:あの事故の日から見舞いに来るたびに

◆:顔を合わせていた

◆:でも、きっと気を遣ってくれて

◆:僕が来ると帰っていたから

◆:ちょっと申し訳ないと思っていた


◇:お互いに気を遣っているのが

◇:すごく伝わってくる

◇:両親の方が先に

◇:耐えきれなくなったのか

◇:帰ると言い出した。


◇:「うん、来てくれてありがとう」

◇:「気を付けて帰ってね」


◇:私は両親にお礼と見送りの言葉を言う


◆:また気を遣わせてしまったと

◆:思いつつ、彼女の両親を見送った


◇:両親が部屋を出るのを2人で見送る

◇:扉が閉まった瞬間に

◇:彼の気の抜けた感じが伝わってきた


◇:「(微笑む)」

◆:「え、なんでちょっと笑ってるの」

◇:「気を張ってて疲れたんだろうなって」

◆:「それはそうだよ。

◆: 彼女の両親を目の前に

◆: 気なんか抜けないだろう?」

◇:「そうだよね。ありがとう」

◆:「いや…

◆: 気を遣わせてしまったなって

◆: 見舞いの度に思ってるんだけど」

◇:「まぁ、両親だって娘の恋人に

◇: こんな形で会うとは

◇: 思ってなかっただろうしね」

◆:「それもそうか」

◇:「うん…でも、よかった」

◆:「えっ?」

◇:「お母さんに

◇: あなたのことを話しておいて」

◆:「あぁ…そういうことか」

◇:「うん」

◇:「すごく優しくて素敵な人なんだって

◇: 実家に帰った時に話してたの」

◆:「え?そんなこと話してたの?(照)」

◇:「(微笑む)」

◇:「私から色んな話を聞いていたから

◇: 知らせなきゃって思ったって

◇: さっき話してた時に言ってた」

◆:「そうだったんだ」

◇:「うん」

◇:『あなたのことをそんなに

◇: 想ってくれる人ならきっと、

◇: 知らないままは辛いだろうし

◇: 重荷になっては申し訳ない』って」

◆:「重荷?」

◇:「私が事故に遭って

◇:『最悪のことも考えておいて下さい』って

◇: 担当医の先生に言われてたんだって」

◆:「それは僕も聞いてたよ。

◆: もうこのまま、

◆: 目を覚まさない可能性もあるって」

◇:「それを聞いた時に

◇:『娘のために

◇: 人生を棒に振るようなことだけは

◇: あってはいけない』って」

◆:「あ…(何か思い当たるような)」

◇:「でも、あなたは

◇: 私の傍に居るって言ってくれたって

◇: 教えてくれた」

◆:「うん」

◇:「すごく嬉しかったし

◇: あなたを好きになって

◇: 本当によかったって思ってるよ」

◆:「僕も」

◆:「君のことを好きになって

◆: 傍に居ることが出来て

◆: 本当に嬉しいって思う」


◆:「ご両親が来る前に話してた

◆: 話の続きになるけど…」

◇:「ん?」

◆:「改めて…

◆: 付き合って2年目の記念日

◆: これからも一緒に居よう」

◇:「うん。これからも一緒に居ようね」



(終わり)

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