1年越しの記念日~その後~


【詳細】

 1年半の記念に書いた作品。

 男女サシ劇

 時間目安 15分程度

 人称変更、語尾改変などは、話の変わらない程度なら可


【あらすじ】

  事故に遭った彼女が退院して…

 

【登場人物】

 ◆:意識を取り戻した彼女と過ごす彼

 ◇:事故から目を覚ました彼女



◆:彼女が意識を取り戻してから数ヶ月

◆:『明日、退院するよ』と

◆:メッセージで連絡があった

◆:僕は仕事を終わらせて

◆:彼女のいる病院に向かう


◇:ようやく退院の日を迎える

◇:退院日を伝えると

◇:『迎えに行くよ』とメッセージ

◇:手続きを終えてロビーで彼を待つ


◆:「お待たせ」

◇:「ううん。仕事お疲れ様」

◆:「ありがとう」

◆:「もう手続きとか終わってるの?」

◇:「うん」

◆:「じゃあ、行こうか」

◆:「荷物、持つよ」

◇:「ありがとう」


(少し間をあける)


◆:こうして彼女と

◆:一緒に歩いて帰るのも久しぶりで

◆:すごく嬉しい


◇:久しぶりに彼と一緒に帰りたくて

◇:両親の迎えを断った

◇:のんびり歩きながら話をする


◆:「どう?久しぶりの外は」

◇:「今日は天気もいいし、風が気持ち良い」

◆:「確かに」

◇:「病院の庭も手入れされてて

◇: 素敵だなぁって思ってたけど

◇: 景色を見ながら外の歩道を…

◇: あなたと一緒に歩くほうがいいなぁ」

◆:「っ!(小声で)君は本当に」

◇:「ん?」

◆:「いや、何でもない」


◆:彼女は時々、唐突に嬉しいことを言う

◆:きっと自覚はないんだけど

◆:不意打ちで言われる言葉に

◆:ドキドキすることは秘密にしている


◇:私が時々、思ったことを言うと

◇:彼はすごく驚いた顔をする

◇:すぐにいつもの表情に戻るけど

◇:隠そうとしているのが

◇:分かっているから「可愛いなぁ」って

◇:思ったりする


◇:「そういえば、仕事の方は大丈夫?」

◇:「お見舞いに来てくれてた時

◇: 忙しいって言ってたけど」

◆:「うん」

◆:「ようやく少し落ち着いたところ」

◇:「…無理しなかった?」

◆:「えっ?」

◇:「直前で知らせたら良くないなぁって

◇: 思ってはいたんだけど」

◇:「一昨日まで、まだ決められないって

◇: 担当医の先生に言われてたから…」

◆:「別に無理はしてないよ」

◆:「そろそろ退院できそうだって

◆: 君から聞いてたし」

◆:「退院日は絶対に早く帰るって

◆: 同僚とかに前から伝えてたし」

◇:「えっ?そうなの?」

◆:「うん」

◆:「君の意識が戻った時から

◆: 決めてたことだから」

◇:「そっか」

◆:「君は本当に心配性だね」

◇:「心配するよ…大切な人だもん」

◆:「いつでも、律儀で誰にでも

◆: 気遣いできるその性格も好きだけど

◆: 気遣いしすぎると疲れちゃうよ?」

◇:「そうかもしれないけど」

◆:「一緒に居る時に気を遣わないのが

◆: 一番だと思うんだよ」

◇:「それは、そうだね」

◆:「だから…

◆: 僕には気を遣わなくていいよ」

◇:「うん、ありがとう」


◆:こう言っていてもきっと彼女は

◆:僕にも気を遣ってくれる

◆:それが想像できる


◇:彼自身が優しくて気遣い出来る人って

◇:きっと気づいていない

◇:私に気を遣っているつもりがないのかなぁって思うけど

◇:そういうさりげないところが

◇:いいところだって思う


◇:「あ、そういえば」

◆:「どうしたの?」

◇:「お母さんから預かったの」


◆:そう言って差し出してきたのは

◆:僕が彼女の母に

◆:ある時、預けたものだった


◇:中身は見ないで返してあげてと

◇:母から言われていたから

◇:そのまま渡した

◇:ちょっと気になってるんだけど

◇:聞いて教えてくれるかなぁ


◆:彼女の母親に気を遣わせてしまったな

◆:と思ったけど、そうさせたのは

◆:どん底に居た時の自分だ

◆:他に誰に頼ったらいいのか

◆:分からないほどに落ち込んでいた自分を

◆:知られるのは少し怖い

◆:でも、彼女には話しておきたかった


◆:「少し…

◆: 途中にある公園で休憩しようか」

◇:「え?うん、いいけど」

◆:「久しぶりに外を歩いてるから

◆: ゆっくりなペースとはいえ

◆: 疲れるでしょ?」


◇:「うん。ちょっと疲れたかも」

◇:「ありがとう」


◇:彼が私のことを心配して

◇:言ってくれているのと

◇:別に何か話したいことがあるのが

◇:何となくだけど分かり休むことにした


(少し間をあける)


◆:公園に着き、近くのベンチに座る

◆:返してもらったものを見つめながら

◆:気持ちを整える


◇:近くのベンチに座り、彼の言葉を待つ


◆:「あの日から毎日欠かさずに

◆: 見舞いに行っていたんだけどさ」

◇:「うん」

◆:「しばらく経ったある日

◆: 君のお母さんに話があるって

◆: 言われたんだ」

◇:「お母さんから?」

◆:「うん。君のことについて」

◇:「私のこと…?」

◆:「“娘が、もうこのままずっと

◆: 目を覚まさないかもしれないって

◆: 担当医から聞いてると思うけど

◆: あなたには未来があるから

◆: あの子の為に時間を使わないで

◆: 前を向いて、進んでほしい”って」

◇:「…」

◆:「僕はその時は

◆: なんでそんなことを言われるのか

◆: すぐに理解が出来なかった」

◇:「そう、だろうね」

◆:「だから僕は…

◆: 何でそんなことを言うのか

◆: 聞いたんだ

◆: そしたら…徐々にやつれてるのが

◆: 分かるって」


◇:「そっか…」

◆:「今思えば、君がお母さんに

◆: 僕のことを話していたから

◆: 心配してくれてたんだって分かる」

◆:「だから…あんな頼み事は

◆: きっと酷だっただろうなって」

◇:「あんな頼み事?」

◆:「僕が君の傍に居ることを決めたって

◆: お母さんから聞いてるでしょ?」

◇:「うん」

◆:「心配してくれているのに

◆: きっと強がっているように

◆: 見えてたんだと思うし

◆: 実際強がってたのかもしれない」

◇:「…」

◆:「あの時の僕は、君が居ない生活なんて

◆: 想像が出来なくて…

◆: 仕事が辛いとかあっても

◆: 君が待ってるって思って頑張れたんだ」

◇:「そっか」

◆:「でも…

◆: 心配してくれている君のお母さんに

◆: 支えを奪われてしまうような気が

◆: してしまってさ」

◆:「君と一緒に居たいって思う気持ちを

◆: どうしたら伝わるかって考えて

◆: これを渡したんだ」


◇:そう言って彼が見せてくれたものは

◇:すごく綺麗な箱だった

◇:その箱を少し不安そうな顔で

◇:差し出してくる彼


◇:「開けていい?」

◆:「うん」


◇:彼の返事を聞いて、そっと箱を開けた

◇:中に入っていたのは、ミニアルバムと

◇:大量の手紙だった


◆:自分で開けるのが怖くて

◆:彼女にそのまま手渡した箱

◆:中に入っているのは

◆:当時の僕が思いつく限りに

◆:想いを込めて作ったミニアルバムと

◆:彼女の見舞いに行った後に書いていた

◆:大量の手紙だ


◇:「これ…」

◆:「物量で表すのはおかしいって思ったけど

◆: でも、これしか思いつかなくて」

◇:「毎日書いてたの?」

◆:「うん」

◆:「手紙というより

◆: 手記に近いかもしれない」

◇:「そうなんだ…

◇: アルバム、見てもいい?」

◆:「もちろん」


◇:元々彼はこういうことが得意ではない

◇:こだわりもないから珍しいって思った

◇:中を開けると出会った頃からの写真が

◇:たくさん収められていた

◇:懐かしさと嬉しさで心が温かくなる


◆:思いついてやってみたものの

◆:今更だけど少し恥ずかしい…

◆:そう思いながら彼女と一緒に

◆:自分の作ったアルバムを見る

◆:出会ったばかりの頃からの写真

◆:ちゃんと残してあってよかったなんて

◆:思いながら作っていたのは秘密だ


◇:「すごく…」


◆:そう呟いた彼女を見ると泣いていた

◆:僕は悲しませてしまったと思い慌てた


◆:「ごめん、泣かせるつもりはなくて」

◇:「え…あ、違うの」

◇:「その、嬉しくて」

◆:「嬉しいの?」

◇:「だって、あなたがこういうこと

◇: すると思わなくて」

◇:「それにこんなに想ってくれてたって

◇: 知れたから」

◆:「そっか」


◆:普段から想いを伝えていれば

◆:そんな風には思われなかったはず

◆:でも、僕はそう想ってくれて

◆:よかったと思った


◇:彼の想いが嬉しくて

◇:心が温かくなって泣いてしまった

◇:勘違いさせてしまったことは

◇:ちょっと申し訳なかったけど

◇:嬉しい気持ちを伝えたら

◇:彼の表情は安堵しているのが分かる

◇:きっと、私がこれを見て困って

◇:泣いたと思ったんだろうなぁ


◇:「急に泣いたらびっくりするよね」

◆:「びっくりしたけど、安心したよ」

◇:「それならよかった」

◇:「ねぇ、こっちの手紙は…

◇: 見ていいの?」

◆:「え?あぁ…それはその…」

◇:「あ、ダメなら見ないよ」

◆:「いや、違うんだ」

◆:「ダメとかじゃなくて恥ずかしくて」

◇:「恥ずかしい?」

◆:「うん」

◆:「この手紙、君のお母さんには

◆: 見せてるんだけど…」

◇:「ん?」

◆:「その…さ。最初は君に宛てた手紙で

◆: 徐々に、お母さんに見せるために

◆: 分かってもらうために書いてるから

◆: 恥ずかしいというか」

◇:「そうなんだ」

◇:「私は知りたいって思うんだけど

◇: 見てもいい?」


◆:「いいよ」

◆:「これは君への手紙でもあるからね」

◇:「じゃあ、少しだけ」


◆:彼女にそう言われてダメとは

◆:言えないし、言えるはずがない

◆:それに話すと決めた時から

◆:これも見せるつもりだったから


◇:彼が書いた手紙をいくつか手に取り

◇:上から順に読んでいく


◆:彼女は箱の中からいくつか手紙を

◆:取り出して、読み始めた

◆:彼女が読むのを邪魔しないように

◆:気を付けながら近くの自販機に

◆:飲み物を買いに行くことにした


◇:最初の頃に書いてた手紙は

◇:想いを綴ったラブレターのような

◇:嬉しい恥ずかしい内容だった

◇:少し経った頃にはどれだけ

◇:私のことを想っているかという

◇:両親へ伝えるために言葉を選んで

◇:書いているような内容と

◇:彼の不安な気持ちを綴った手紙だった


◆:飲み物を買って戻ってくると

◆:彼女が手紙を握りしめながら

◆:泣いていた。


◆:「ごめん…」

◇:「え?」

◆:「辛い思いにさせたよね?」

◇:「…すごく想いが伝わる手紙だった」

◆:「…」

◇:「…本当にごめんね」

◆:「え?」

◇:「不安の気持ちが書いてある手紙…

◇: 両親からの返事が一緒に入ってた」

◆:「うん」

◆:「僕が君の帰りをいつまでも待つって

◆: 思っていても、それがいつになるか

◆: 分からないから、先が不安だって

◆: 少し弱音を書いているやつには

◆: 返事を書いてくれてたからね」

◇:「ごめん」

◆:「大丈夫だよ」

◆:「こうやってまた君と

◆: 二人で一緒に居られるんだから」


◆:そう言って僕は、彼女の頭を撫でた

◇:「…ずるい」

◆:「え…?」

◇:「意識が無かったとき、暗闇にいたとき

◇: あなたの『ごめん』を何回も聞いたよ」

◆:「あ…ごめん(苦笑)」

◇:「あ!また言った」

◆:「あ!(苦笑)」


(二人で苦笑する)


◇:「そうだ!お祝いしようよ」

◇:「一年記念日のお祝い。やり直さなきゃ」

◇:「私、料理作るから!」

◆:「記念日だけじゃなくて

◆: 君の退院祝いもね(笑)」

◆:「僕も料理手伝うよ」

◇:「ありがとう」

◆:「こちらこそ」

◇:「え…?」

◆:「目を覚ましてくれて、ありがとう」

◆:「隣に居てくれて、ありがとう」

◆:「僕のことを想ってくれて、ありがとう」

◇:「…」

◆:「これからは、ごめんて今まで言ってきた分…

◆: いや、それ以上に、君にありがとうを伝えるから」

◇:「うん…私も…」

◆:何かを言おうとしている彼女の言葉をさえぎって、

◆:僕は彼女を抱きしめた。


◇:「っ!」

◆:「大好きだよ」



(終わり)

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